2013/03/31

[A-057] 坂本龍一 - B-2 UNIT ('80)

ものすごくご無沙汰しております。早速予想通りのペースダウンとなっている模様です(笑)。こりゃ今年中にも終わらんな…(苦笑)。ここまでコピペ(失笑)。


[A-057] 坂本龍一 - B-2 UNIT ('80)



朝、目覚めると、男は『アイドル』になっていた。ただただ、淡々と『仕事』をこなしていた男は、ある朝突然と『アイドル』になっていたのだ。ファンは彼に羨望の眼差しを送り、人々は彼をその好奇の目に映す。

それを心地よいと感じるか、それとも疎ましく感じるかはその人間の資質によるだろう。それを受け入れる事が出来ず、むしろ反感を抱いた彼は、しかしどうする事も出来ず、悶々とその鬱屈を溜め込んで行った。

或る日も彼は『仕事』を請け負った。関西出身のパンク少女のソロデビュー・シングルのプロデュースだ。鬱屈した思いを抱えていた彼は、スタジオで出会った無愛想な少女に自分を重ね、その鬱屈の中身を覗き込む様に、自分の中の表現の欲求を探った。

その頃聴いていた英国のバンドPop Groupが、楽曲に対し凄まじく破壊的なミックスを行っていた。それこそ、音楽として必要な要素さえも停止させてしまう様な、しかしそれでいて圧倒的にエモーショナルな作品たち。『ダブ』。…彼の中で、楽曲の破壊と再構築の方法論に興味が収斂して行く。

果たして、完成したシングル、Phew (Vo)の『終曲』は、無機的なリズムと、強迫的なシンセ・ベースがぎくしゃくとリズムを奏でている上に、現れては消えるノイズと、ぶっきらぼうなボーカルがてらいも無く載ると云う、まるで楽曲として成立する事を拒んでいるかの様なモノだった。今まで抑圧されていた彼の中の或る『回路』が開いたのだ。

構想を膨らませた彼は、遂に所属するレコード会社に掛け合う。「このまま『アイドル』を続けて欲しいのなら、ロンドンでソロ・アルバムを作らせろ。共同プロデューサーは『終曲』を出したPassレーベルの後藤美孝、エンジニアはPop GroupのプロデューサーDennis Bovell」。会社は了承せざるを得なかった。

鬱屈と計算と、反抗心とプライドと、喜びと怒りが、何やらない交ぜとなって爆発的に凝縮した。完成したアルバム『B-2 UNIT』は、冷ややかに曇った、鋭く重い、音楽以前の『音響』だ。ダブ処理されたノイジーでミニマルな電子音と、エフェクティブで乾いた楽器音が、混沌となって空間にばらまかれている。

しかし、やはり圧倒的にエモーショナルなのだ。『奏でられる』のではない、数多の要素から『切り取られる』ことによって作り出された音楽は、充分にこちらを高揚させ、あまつさえ踊らせることさえ可能だった。そしてそれは、図らずも『ヒップ・ホップ』の方法論をも先取りしていたのだ。

この強烈に『オルタナティブ』なアルバムが『商業音楽』として成立し、しかも15万枚も売れた80年代と云う時代は、どこか狂っていたのだろうか。彼はその後も、そして未だに『アイドル』を続けている。それは『アイドル』を受け入れ、装う事が、自分を表現する為の最大の『力』になることを学んだからだ。


その他のアルバム

坂本龍一 - 戦場のメリー・クリスマス ('83)



大島渚監督の映画 ('83) のサントラ。ジメついた熱帯の殺伐とした風景に、エキゾチックな情緒の風を送り込んでは消えて行く、そのシュールな作業をひたすらに繰り返す儚き音楽。

Andy Partridge - Take Away / The Lure of Salvage ('80)



『B-2 UNIT』にも参加した英ニューウェーブ・バンドXTCのギタリストが、バンドの音源をダブ・ミックスしソロ・アルバムとして発表したもの。同じ80年発表ではあるが、『B-2 UNIT』はこのアルバムの影響を少なからず受けている様で、音の感触が驚く程に似通っている。

0 件のコメント: