[A-053] The Durutti Column - Another Setting ('83)
『パンク・ロック』を源流とする『ニュー・ウェーブ』『ポスト・パンク』と云うオルタナティブ・ロックの流れは、その成り立ちからやはり『破壊願望』や『暴力衝動』などが多かれ少なかれ要素として含まれていた。それは時代や現状に対するアンチテーゼの役割を担う『前衛』の宿命とも云える。
元々『ロック』そのものが、音楽に於けるその『前衛』であった。若者の文化に根差す、力強く、アグレッシブな音楽。それは、現状やスタンダードに埋没すまいと云う或る種の『イキガリ』と云えるかも知れない。…ちょっと矮小化し過ぎだろうか(笑)。つまり何が云いたいのかと云うと、おおよそ『弱さ』…少なくともそれを目指した『ロック』は存在しなかったのではないかと云うことだ。
The Durutti Columnは英マンチェスターで78年に結成された、一応『ロック・バンド』だ。”一応”と云うのは、80年にFactoryからMartin Hannettプロデュースで1stアルバム『The Return of the Durutti Column』を発表する頃には、結局はVini Reilly (G,Vo,Pf)のソロ・プロジェクトになってしまうからだ。
バンド名はスペイン内戦で活躍したアナキスト部隊の名。随分と勇ましい。しかし、1stアルバムに針を落とすと、紡ぎ出される音は、鳥のさえずりを模した電子音、チープなリズムボックスに乗って奏でられる、Viniの切なくも空ろなギターだ。そう、『空ろ』なのだ。今にも消え入りそうな、茫洋とした音の風景。
81年の2nd『LC』も、基本的には変わらない。リズムボックスに代わる、この後長年のパートナーとなるBruce Mitchellのパーカッションをバックに、揺れるギターが冷たい空間に広がる。そして、小さく低く、力の抜けた自身のボーカルが聞こえる。主張する気も無く鼻歌の様な陽気さも無い、まるで夕景を前にしたひとりごとの様だ。
抑えて、控えて、漂い、うつろう。薄く、暗く、不鮮明で、物哀しい。まるで『弱さ』を奏でるロックだ。しかし、これも『オルタナティブ・ロック』なのだとすれば、つまりは『時代や現状に対するアンチテーゼ』なのであり、結局は『過激』を良しとしていたあの『時代』の風潮こそが、アナキストにとって打ち破るべきモノだったのではないかと、ふと思うのだ。
3rdアルバムである『Another Setting』は、その名の通り室内楽的な要素も取り入れ、様々な音色の鳴り響くカラフルなアルバムだ。仄かな陽気さを持つ曲さえある。しかし、このアルバムを聴くと、どうしても思い浮かべてしまうのは、『現実』のその先にある世界だ。流れる小川や、咲き乱れる花、穏やかな風景が、淡い光に浮かぶ世界。…この現実を『現世』と呼ぶのならば、それは正に『死後の世界』と云えるのかも知れない。
まるで死を前にした病人の様にやせ細ったViniのビジュアルが、その妄想に拍車を掛けていたのだろうか。しかし、未だにThe Durutti Columnは活動を続けている。『強さ』『過激さ』を声高に叫びながら死んでいった数多くの同時代のバンドたちよりも、確実に彼(ら)は強かったのだ。
その他のアルバム
The Durutti Column - Lips That Would Kiss ('91)
シングルと未発表曲のコンピレーション。ピアノ曲等も収録。とにかく、初期 ('80)のシングル曲であるタイトル曲の、リズムボックスをバックに、切なく震え、すすり泣くギターの、息の詰まる様な美しさ。彼(ら)の感性を代表する作品だろう。
V.A. - From Brussels with Love ('80)
彼(ら)を含むFactory系アーティストやJohn Foxx、Thomas Dolby、Michael Nymanらが参加したベルギーのCrepusculeレーベルの名作コンピレーション(オリジナルはカセット・テープ)。自分の持っているアナログは一時期『新星堂』がディストリビュートしていた国内盤で、ジャケットには日本語で『ブリュッセルより愛をこめて』と書いてある(笑)。
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