[A-052] The Work - Live in Japan ('82)
昔、70年代後期から80年代に掛けて、『フールズメイト』と云う音楽雑誌が有った。…いや、今でも有るのだが、現在はいわゆる『ヴィジュアル系』専門誌となってしまっている。当時は、いわゆる『プログレッシブ・ロック』を中心に、主に欧州の先鋭的な音楽や日本のインディーズ・ロックを扱う雑誌だった。
昔話は続くが、今では雑誌に音源の付録が付くとなると普通にCDや、最近ではDVDで映像まで付いたりする。しかし、ふた昔以上前は主に『ソノシート』と云うモノだった。カンタンに云えば、ぺらぺらのビニール製のアナログ・レコードである。これが本や雑誌に挟み込まれたり綴じられたりしていた。音源付きの楽器の教則本などは殆どが『ソノシート』だった。
長々と昔話をしたが、要するに、昔々、或る日に本屋で『フールズメイト』を手に取ってみると、そこには『ソノシート』が挟み込まれていたのである。赤く透き通る盤面には『THE WORK / I Hate America』とあった。…あんまりなタイトルである(笑)。The Workが当時、日本のインディーズ・レーベルから1stアルバムを発表し、来日公演も行った頃だと云うのは知っていた。
The Workは元Henry Cowのサックス/キーボード奏者のTim Hodgkinsonらが80年に結成したバンドだ。当時いわゆる『チェンバー・ロック』や『フリー・インプロ』を中心とした、いわゆる『レコメン系』の音楽は静かな盛り上がりを見せていたので、その中心たるHenry Cowの残党であるからして、The Workの音楽もきっとそのテであろうと自分はタカを括っていたのだ。
でまあ、家に買って帰り、その『ソノシート』に針を落としてみて驚いた。『滅茶苦茶』だったのだ(笑)。…いや、あの衝撃を何としよう。それが、全くのアブストラクトなフリー・インプロや、もしくはシュールなノイズ・ミュージックだったのならそこまで驚かなかったと思う。いや、逆に大して感慨も抱かず印象にも残らなかったであろう。
もう、正直に印象を云ってしまえば『ヘタ』に聴こえたのだ(笑)。ギターも、ベースもドラムも、素っ頓狂なヴォーカルも、それぞれがリズムを無視してバラバラバタバタとズレながら次々と奏でられる。アブストラクトではない、ズレているのだ。誰もジャストに来ようとしない。そんな音楽、聴いたことが無かった。…『ヘタ』な音楽以外には(笑)。
『Live in Japan』はその名の通り彼らの82年6月の来日公演をカセット・テープで録音したモノだ。ドラムにはやはり元Henry CowのChris Cutlerが参加した。普通ならテクニカルなロックを志向する様なメンバーである。それでも、彼らはジャストをかわし、ズレる。しかし、何故だろう猛烈に高揚するのだ。ロックは『時計』ではない。『波』だ。バラバラな『点』も、俯瞰してみれば大きな『波』になる。猛烈な『グルーヴ』になる。
CD化に際して、ボーナストラックにはあの懐かしいソノシート音源が追加された。『ヘタ』だの『ダメ』だの、こと『音楽』には無い。全てを『肯定』する。それはあの日あの時代に感じていた、『未来』と云うモノへの『希望』の味に似ている。
その他のアルバム
The Work - Slow Crimes ('82)
ゲスト・ヴォーカルにベルギーのCatherine Jauniauxを迎えた1st。やってることは次作『Live in Japan』とほぼ同じなのだが、キュートで時にヒステリックな女性ヴォーカルが有るからか、はたまた音質的にクリーンな為か、まだまだいわゆる『レコメン系』のバリエーションに聴こえはする。
The Raincoats - Odyshape ('81)
The Slitsのドラマーが結成した女性パンク・バンドが、彼女が脱退後にアコースティックなオルタナティブ・バンドへと転じて発表した2nd。いや、Robert WyattやCharles Haywardまで参加したこのアルバムが『ヘタ』なワケが無い。しかし、この何とも云えない隙間だらけで揺らぐ音空間は、安らぎと不安の入り混じった不思議な後味だ。
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