2012/09/16

[A-048] Cluster & Eno - Cluster & Eno ('77)

『夏の終わりのイーノ祭り』と云うことで、前回に引き続きBrian Eno関連でお送り致します。次回も関連作になる予定。名義は全部違うので、一応は『1アーティスト1作品』のルールは守られているはずです。…やや水増し感がありますが(笑)。


[A-048] Cluster & Eno - Cluster & Eno ('77)



70年代、ドイツに展開していたジャーマン・ロックは、周囲から隔絶された全くの孤高のシーンであったのかと云えば、そう云うことも無く、各国の音楽シーンと交流は有った。特に多くのジャーマン・ロックのアルバムを手がけたプロデューサーConny Plankは、英のロック・バンドUltra Vox他のプロデュースなども手がける等、国際的な存在だった。

そして、そのジャーマン・ロックに最も影響を受けていたであろう英国のアーティストが、またも登場する彼、Brian Enoである。特に彼のアルバム『Another Green World』('75)と『Before and After Science』('77)は、その電子音やリズムボックスの使用や、独のバンドNeu!で有名な『ハンマー・ビート』の採用等、非常に影響の色濃い作品だった。

同時に彼は、自身の実験的なプライベート・レーベル『Obscure』や『Ambient』からのいくつかのアルバムで、いわゆる『環境音楽』へのアプローチも行っているが、それらも、ジャーマン・ロックからの影響が有ったのかも知れない。彼は、その頃に或るコラボレーションを行っている。

Clusterは、Hans-Joachim Roedelius (Electronics, etc)、Dieter Moebius (Electronics, etc)、そしてエンジニアリング/プロデュースにConny Plankを迎えた、独の実験的な電子音楽ユニットである。初期は正に実験的な『ノイズ・ミュージック』を志向していたが、次第にユーモラスでポップな『音響工作』を始める様になった。

その音楽の進路上に『環境音楽』的なアプローチが出現する。それに反応したのだろうか、Enoは、彼らとのセッションを、Conny Plankのスタジオで、CanのベーシストHolger Czukayらを迎え1977年6月に行った。その結実がこのアルバムである。…と、ここで普通は内容、その音楽の紹介をしなければならないのだろうが、今回はしない。と云うか、その必要が無い。音の全てが、ジャケットに有るからだ。

夕暮れ時、虫たちの騒ぐであろう草むらから、すっ、っと一本のマイクスタンドが立っている。二本用のマイク・ホルダーには、片側に一本だけマイクロホンが設置され、上方に向けられている。その先には、夕映えの雲。闇に落ちる前の、空。流麗な字体で『Cluster & Eno』とあるタイトルの、その『C』の左脇に、まるで自らもタイトルの一部であるかの様に浮かぶ、月。その全てが、つまりは、この音の為の舞台であり、音の表す世界そのものなのだ。

Enoは、理屈のヒトである。自らの『環境音楽』も、特に初期は理論や引用で創造した。そのアルバムのジャケットも、ビデオ映像や地図等、シュールで無機質なモノばかりだ。しかし、その理屈を超えた、実は『本音』が、このジャケットに現れているのではないかだろうか。夕暮れの空に浮かぶ月。それに向け、孤独に佇むマイクロフォン。『環境音楽』の、その原点とは、つまり、もどかしくも切ない『自然への憧憬』なのだ。


その他のアルバム

Eno, Moebius, Roedelius - After the Heat ('78)



Clusterが分解されて三人の名義になった次作。Enoのボーカル曲も含め、前作より陰りの有る音響で構成されていて、タイトルやジャケットも含め、前作の音世界からの時間経過を感じさせる。

Cluster - Sowiesoso ('76)



音、構成、そしてジャケット等、『Cluster & Eno』の元になったであろうClusterの4thアルバム。Enoのストレンジな音響趣味が無いと、シンプルでリリカルな電子音楽になる。

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