[A-047] Brian Eno & David Byrne - My Life in the Bush of Ghosts ('81)
『Eno is God』と云い出したのは誰だったのか、なるほど、70年代から80年代に掛けてのミュージシャン/プロデューサーとしてのBrian Enoは、『オルタナティブ・ミュージック』に於いて人々を導く『神』そのものだった。新しい音楽の方法論を見出しては、実験を繰り返し、やがてそれはポップスに取り込まれ、大衆化する。『アンビエント』『ノー・ウェイヴ』『サード・ワールド・ミュージック』…、それらは皆、彼の手を経て大きなムーヴメントになって行った。
彼のエピソードの中で印象的なのは、『一時期、現実音を一旦マイクを通してから聞いていた』と云うモノだ。テクノロジーを通過した『音』を分析的に聞く。変調された異質な『現実』を見つめる。それは彼の音楽に対する姿勢を良く表していると思う。彼は、彼自身が『フィルター』であり、私たちが彼から受け取っているのは、『Enoと云うフィルターを通した事象』に他ならない。
彼は70年代後期から、David Byrne(Vo,G)率いる米のパンク・バンドTalking Headsのアルバム・プロデュースを行って来た。そして79年のアルバム『Fear of Music』の中の一曲『I Zimbra』で、初めて『アフロ・ファンク』を取り上げる。そしてその発展形が、次作『Remain in Light』で展開されるミニマルで重層的な構造を持つ独特のファンクだ。そこでの Byrneのヴォーカルは、まるで宗教家の説教か革命家のアジテーションの様に、聴く者に投げ付けられる。
実は、EnoとByrneは、『Remain in Light』に取り掛かる以前から、共作アルバムの製作を開始していた。それがこの『My Life in the Bush of Ghosts』だ。過激で、直情的で、すぐに極論の飛び出すアメリカのラジオ放送に興味を持ったEnoは、その音声をそのまま音楽に取り入れることを思い付く。発想の時点では、イギリス人らしい皮肉の効いた『ジョーク』の音楽だったのだ(笑)。
しかし、ここでも彼の『第三世界』趣味が顔を出し、イスラムの祈りやゴスペルを取り入れ、エキサイティングなアフロ・パーカッションを導入する等、全体としては実にエキゾティックで、呪術的で幻惑的な、何とも異様なムードに満ちてしまった。だがやはり、何よりも異様なのは、他ならぬラジオの音声である。
繰り返し、繰り返し、それは助けを乞い、共に行こうと誘い、怒りの矛先を政府に向けろと煽る…そのどれもが、米のラジオの『日常』なのだ。Enoのフィルターは、それら日常の『現実』を、『変調』し、『異化』し、『分析』し、『茶化』す(笑)。同じ様に祈りの声も、その装置の中では現実味を無くし、『異様』の為の色褪せたノイズでしかなくなる。
しかしやはりと云うか、これらの音声を使用する為の権利関係でリリースは遅れ、結局は『Remain in Right』の翌年に発表された。だからつまり、『Remain in Light』でのByrneのヴォーカルは、このアルバムでのラジオの音声に影響を受けたモノなのだ、そこで彼は、ヒステリックに主張し、人々を煽る、まるで現実味の無いアメリカの『日常』を再現している。
その他のアルバム
David Byrne - The Catherine Wheel ('81)
米の振り付け師Twyla Tharpのバレエの為の音楽。Brian Enoも参加、そして同じ81年と云うことで、内容は『裏ゴースツ』とでも云えるオルタナティブなモノ。そして数曲有るByrneのボーカル曲ではTalking Headsを彷彿とさせる。CD(とカセット・テープ)は『完全版』と云うことなのだが、個人的には曲数の少ない『ダイジェスト版』アナログLPのバージョンの方が中々ドラマティックな編集で良い。
David Byrne & Brian Eno - Everything That Happens Will Happen Today ('08)
27年ぶりに出た二人の共作。Byrneの名前が先にあるからなのか、前作と違い実にポップ。音楽的に凶悪なキャリアを歩んだ彼らが辿り着いた境地だと考えると、妙に神々しくも聴こえる(笑)。
0 件のコメント:
コメントを投稿