[A-044] Peter Hammill - Loops & Reels ('83)
カセットテープ・レコーダーが来る前から、家には『オープン・リール』のテープ・デッキが有った。原理的にはカセットと同じ、巨大なミシンのボビンの様な円盤(リール)に巻かれたテープを、もう片側のリールに巻き込みながら音を録音したり再生したりするキカイである。家に有ったのは一応ステレオなのだが、これもカセットと同じく、端まで録音・再生しながら巻き終わると、そのままひっくり返して逆に録音・再生しながら巻き取ると云う、いわゆる『A面・B面』が有るタイプだった。
昔はそんなキカイ向けにちゃんとソフトも売っていた。レコードと違ってプチプチとノイズが入らないと云う利点も有ったが、何しろ『テープ』であるからして、切れる。そうなると、もはや『繋ぐ』しか聴く手立ては無い。まあ、大抵はそのまま切れた所を裏からセロハンテープで止めて良しとしてしまうのだが。
その編集箇所を聴くと、音が消えたり、リズムが崩れたり、音が捩れたり、…とにかく、通常の音楽では有り得ない『効果』が現れた。普通は顔をしかめるべき所なのであろうが、またまた登場する某『バカな子供』(笑)にとっては、とても不思議で、ある種の『魅力』を持ったモノに聴こえたらしい。
そのキカイを扱えるぐらいの年齢になった彼は、音楽を録音したテープをワザと切って、貼って、おかしなリズムや唐突な音を産み出すことに夢中になった。ハサミの代わりにカミソリを、セロハンテープの代わりに、専用の『スプライシング・テープ』を使うことも覚えると、現実音と楽音がごちゃごちゃと入れ替わる非常にシュールなテープを作っては、ひとり悦に入った(笑)。
そして最終的には、『テープ・ループ』の実験に至るのだ。輪に繋がれたいわゆる『エンドレス・テープ』に録音された永遠に繰り返す音楽、声、現実音。それらをずっと聴いていると、何だか薄ら寒い不気味さと、白昼夢を見る様な浮遊感がない交ぜとなった気分を味わえた。それを『トリップ』と云うには稚拙過ぎるかも知れないが(笑)。
Peter Hammillは英プログレッシブ・ロックの重鎮Van Der Graaf Generatorのボーカリストだ。彼のソロ・アルバムは、その殆どがバンドの音楽の延長線上にある『ロック』で、傑作も多い。だから、まさか彼が『テープ・ループ』を使い、あの”気持ち悪さ”を現出させた『実験的』なアルバムを出すとは思わなかった。
ここには(厳密な意味での)ボーカル曲は二曲しか無い。それらも繰り返す得体の知れない民族音楽的なリズムや、繰り返す多重録音されたコーラスの上で歌われている。その他も攻撃的であったり、催眠的であったり、叙情的であったり、シュールであったり、…テープを切り貼りして作ったあの音楽と同じ混沌が、何倍も洗練された形で収められている。
現在に於いては、こんなことデジタルを使えば何の手間も掛からない。カミソリもスプライシング・テープも、そしてテープ・デッキさえも要らない。しかし、”気持ち悪く無い”のだ。薄ら寒くない。明るく乾いた『混沌』の上で、今、人々は踊りさえもする。しかし、あの、何か『冷や汗』の出る感覚…『不快に引き込まれる快感』と云うか…それが、制御しきれない『アナログ・テープ』の、その不可侵な場所の『磁力』故であったなら、ヒトはもう一度カミソリを手にする価値があるのかも知れない。
その他のアルバム
Peter Hammill - Skin ('86)
長い彼の全キャリアを通じて、恐らく最も『ポップ』であろうアルバム。同じ86年のPeter Gabriel『So』に匹敵するオルタナ・ポップの傑作でありながら、長年培われたエキセントリックなオーラが音の端々に渦巻いている為か、あちらと違ってメジャー・ブレイクとはならなかった(笑)。
Van Der Graaf Generator - Vital / Van Der Graaf Live ('78)
結成時より彼が在籍し、現在も再結成活動中のバンドの、二度目の解散時に出したライブ・アルバム。これ以上の『へヴィー・メタル・ミュージック』は無いであろう。…誤解を誘う云い方をしたが(笑)、実際、二枚組を通して聴くと、へヴィネスとロマンティシズムで身も心も”へろへろ”になる。
0 件のコメント:
コメントを投稿