[A-043] A Certain Ratio - Sextet ('82)
『ニュー・ウェーブ』と『ファンク』は親和性が高い。ロックと他の雑多な音楽の混合が或る意味『ポスト・パンク』の方向性のひとつであるならば、パンクにファンクやディスコの要素を取り入れたのが『ニュー・ウェーブ』の特徴であると云っても良いだろう。
『ファンク』にも色々有る。R&Bのリズムを元にしたブラック・ミュージックの所謂『ファンク』、ニュー・オリンズ・ジャズ由来のハネるリズムの『セカンドライン・ファンク』、そしてもうひとつ、南米の音楽を祖とする『ラテン・ファンク』だ。その多くはサンバを土台とした、ブラスやパーカッションを主体とした明るく豪華できらびやかな音。おおよそ『ニュー・ウェーブ』には似つかわしくない(笑)。
Brian Enoの曲の歌詞からバンド名を取ったA Certain Ratioは英国はマンチェスターで77年に結成された。ご多分に漏れず、初期はパンクをやっていたが、中心となったオリジナルメンバーJeremy(Jez) Kerrがベース/ボーカルだったからか、次第にファンク色を打ち出す様になった。そしてもうひとりのオリジナルメンバーMartin Moscropがギター兼”トランペット”だったのが、さらにその音の方向性を決定付けたのかも知れない。そう、『ラテン』の導入である。
彼らのこの2ndアルバムは、確かに『ラテン・ファンク』ではある。重層的なパーカッション、ミニマルなスラップ・ベース、ファンキーなクラビとリズムギター、アクセント的なホーンや女性コーラス。ラテン的『熱狂』『興奮』『恍惚』に達する為の材料は揃っている。…しかし、料理法が間違っていた(笑)。何よりも本人たちが、怖ろしい程『冷めている』。
彼らは『熱狂』も『興奮』も『恍惚』も信じちゃいないのだ。少なくとも、そこに自分たちの音楽の本質があるとは思っていない。材料を揃え、ラテンをシミュレートしてみても、その根底に有るのは眩い太陽や迸る汗では無く、どんよりと曇った工場の立ち並ぶ風景と、やつれた無表情なのだ。ひどく不気味でシュールなコラージュの音楽から、その『ホンモノ』との落差から、逆説的に、時代の閉塞感を際立たせる。彼らの音楽はそんなニヒリズムの中に有る。
やがて『ミクスチャー・ロック』の登場によって、『ニュー・ウェーブ・ファンク』は淘汰されてしまう。『熱狂』『興奮』『恍惚』等の快感原則をちゃんと備えた『ホンキ』の前には、斜に構えた『ヒネクレ者』はさすがに成す術が無かった。それは黒人たちによる『ヒップ・ホップ』『ハウス』『デトロイト・テクノ』の登場で、『テクノ・ポップ』が淘汰されてしまったのによく似ている。
その他のアルバム
A Certain Ratio - To Each... ('81)
1stアルバム。表ジャケの収容所と云い、内ジャケのナチス・ドイツの写真と云い、同じFactoryレーベルでMartin HannettプロデュースのJoy Division (Warsaw)を多分に意識してはいるが、音は同じ流れの中にあるとは云え、ギクシャクと不気味に乾いたファンクだった。
A Certain Ratio - Force ('86)
”Fourth”とかけたのか、Factoryレーベルでの最後のアルバムとなる4th。当時流行っていたジャズ・ファンク路線へと舵を切ったのか、ポップになり不気味さは消え去った。この後、またまた流行に乗ってエレポップ路線へと舵を切り、現在も継続中。
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