2012/06/24

[A-042] Tuxedomoon - Divine ('82)

イヤハヤなんともホントにスッカリ忘れてしまうブログの更新(笑)。満願成就までどんだけ掛かるんだかねえ。それまで日本は持つのだろうか(笑)。


[A-042] Tuxedomoon - Divine ('82)



70年代後期からディスコ・ブームが有った。そして、その『オルタナティブ』としてパンク・ムーブメントが有った。…等と云うのは図式を単純化し過ぎだろうが、とにかく、いつの世でも『ダンス・ミュージック』が表通りを我が物顔で歩いていたのは間違いない。

確かに、『踊りの為の音楽』は『機能性音楽』としては『祭事』や『呪術』などに用いられた様に初源のモノであり、それは現在までも延々とメイン・ストリームを占めている。現在のアメリカのチャートなどはその究極の形ではないだろうか。リズムのスタイルどころかBPMまで揃えた『ダンス・ミュージック』がずらりと並ぶ。それらがトランシーな快楽を追求した『踊り』であるのに対し、一方ではアカデミックでアーティスティックな『踊り』もある。『バレエ』だ。クラシック音楽にはバレエの為の音楽があり、それらも『踊りの為の音楽』と云えよう。

Tuxedomoonは、アメリカはサンフランシスコで77年にBlaine L.Reininger (Vln,Vcl,Vo,Key)、Steven Brown (Sax,Key,Vo)、Peter Principle (G,B,Per,Key,Vo)、Winston Tong (Vo,Pf)を中心に結成されたバンドである。作り出される音楽は、何とも耽美的な弦と管が蠢く、ヨーロピアン・デカダンに溢れた、美しく暗く煌びやかに煙ったモノだった。あの明るく輝くカリフォルニアの太陽の下で作り出されたとは到底思えない(笑)。本人たちもそう思ったのかどうか、81年にベルギーはブリュッセルに活動拠点を移した。

そこへ飛び込んだのが、何と『バレエ音楽』の仕事である。委嘱したのはフランスの世界的な現代バレエの振付師Maurice Bejart。彼はちょうどブリュッセルでバレエ学校を主宰していたのだが、81年、かの伝説の名女優Greta Garboを題材にしたバレエを創作することになったのだった。単なるブリュッセル繋がりで依頼されたのかどうか、もしそうだとしたらナカナカの賭けである。クラシカルとは云え、彼らは『ニュー・ウェーブ』バンドなのだから。

果たして、出来上がった音楽は楽音と現実音と声が混沌とした…いや、今鳴っているのが一体何なのかの判断さえつかない、茫洋として沈鬱で曖昧で滑稽な音楽…いや、『音』だった。彼らのキャリアの中でもかなり異質である。なるほど、これは多くのバレエ音楽と同じく、いわゆる『ダンス・ミュージック』としては全く『機能』しない。それは『舞台装置』だからだ。一人の女優の心象の襞を響かせる為の『背景』であり、『空気』であり、『環境』なのだ。

80年代も中盤を迎え、主にテクノロジーの進歩による音楽的実験は、結局全て『ダンス・ミュージック』へと取り込まれてしまう。そしてその『オルタナティブ』として、『ギター・ミュージック』が息を吹き返す。現在はもう表も裏も、通りは彼らが闊歩している。楽しそうにはしゃぐその顔を見下ろし、虚空にひとり漂い、踊り続けるのは、ただ、昇華され、忘れ去られた、『機能しない音楽』たちだ。


その他のアルバム

Benjamin Lew & Steven Brown - Douzieme Journee: Le Verbe, La Parure, L'Amour ('82)



Steven Brownがベルギーの電子音響家Benjamin Lewと組んで同じくベルギーのCrammed Discsから出したエキゾチックでストレンジなアンビエント・ミュージックのアルバム。時に混沌として不気味なサウンドが(白人目線の)いわゆる『アジア的』いかがわしさを感じさせてキモ和む。

Tuxedomoon - Suite En Sous-Sol / Time to Lose / Short Stories ('88)



シングル・コンピレーション。途轍もなく美しい室内楽曲『Music #2』入りのシングル『Time to Lose』は、多分、自分が初めて買った外盤(輸入盤)だったと思う。西新宿の裏道をうろつく紅顔の美少年でありました(笑)。

0 件のコメント: