[A-036] The Pop Group - Y ('79)
かつて映画には『SF映画』なるジャンルが有った。それは文字通り科学的に空想された架空の未来を描いたモノで、その世界観と、そこに起こる事件を物語り完結していた。それらは一般映画とかけ離れた独特の語法を用いる為か、特にココ日本に於いてはタイトルの頭に大抵『SF』の文字が追加されたりしていた。
しかし、その『SF』と云うモノが実に便利な『方便』である事に気付いたのが、かのGeorge Lucasだ。彼は監督した映画『Star Wars』('77)に於いて、古今東西のあらゆる映画の要素を詰め込む為の『触媒』として『SF』を利用した。有体に云えば、『SF映画』とは何でもアリの、どんなモノでも吸収し、そして成立させる事の出来る便利な『容れ物』であることを、この潰れかかった映画会社を救う程の大ヒット作が証明してしまったのだ。
『パンク・ロック』はその名の通り『ロック』である。もっと云えば、過激化した『ロックン・ロール』である。それは70年代半ばのニューヨーク・パンクからロンドン・パンクまで共通するフォーマットだった。その音はどんなに形骸化し、どんなに破壊され、どんなに陳腐化しようとも『ロックン・ロール』だった。…彼らが登場するまでは。
The Pop Groupは77年の英ブリストルでの結成時には全員高校生だったと云う恐ろしいバンドだ。つまり、2年後のこの1st『Y』発表時にも彼らはまだアンファン・テリブルだった。その子供たちが、『パンク・ロック』とは何でもアリの、どんなモノでも吸収し、そして成立させる事の出来る便利な容れ物である事に気付いてしまったのだ。
プロデュースしているのは、ブリティッシュ・レゲエ・バンド『Matumbi』のDennis Bovell。しかし、The Pop Groupの音楽はレゲエだけでは無い。ファンク、ジャズ、現代音楽、民俗音楽、ノイズ…。正に、あらゆる音楽の要素が詰め込まれ、それらの音楽にBovell一流のダブ処理が施され、今まで誰も聴いたことの無い『新しい音楽』が創造された。
不安定な音量と定位、現れては遠ざかる音、残響を残して突然終わる音等、ヒトの不安を掻き立てる暗黒の廃墟の様な音像から、稲妻の如く闇を切り裂き現れるMark Stewart (Vo)の悲痛な叫び声が、ああ、これは『新しいパンク』、『もうひとつのロック』なのだと認識を迫って来る。
3枚のアルバムを残し早々に分裂してしまった彼らの音楽は、廃盤の為に長い間聴くことが出来ず、待ち詫びた人々は『新しい音楽』に想像を巡らしたが、やっと再発されるや、多くは『在り来たり』と拍子抜けして投げ出してしまった。それは彼らがその後の『ロック』に与えた『何でもアリ』の認識が既に一般化してしまっていた為だろう。映画に於ける『SF』も、今や単なる一般映画の設定の一要素に過ぎない。しかし、スター・ウォーズも、彼らも、確実に『新しかった』。
その他のアルバム
Slits - Cut ('79)
『Y』と同じDennis Bovellのプロデュースで、『女ポップ・グループ』の異名を持つパンク・ダブ・バンドの1st。ダブ処理されたスッカスカな演奏とAri Upの投げやりなボーカルが一周回ってキモチ良い。このジャケも結構アレだが、昔、彼女らが表紙の音楽雑誌を無造作に部屋に置いておいたら家族に見られて激しく誤解された。だってパンツ見えてたんだもん(笑)。
New Age Steppers - The New Age Steppers ('81)
ON-UレーベルのプロデューサーAdrian SherwoodとSlitsのAri Upが結成し、Pop Group勢やAswad、Creation Rebelのメンバー等のレゲエ/ON-Uレーベル勢、Steve Beresford (B,Pf)やVivien Goldman (Vo)等のFlying Lizards勢も参加したニューウェーブ・ダブのオールスター・プロジェクト。Mark StewartやRip Rig + Panic等、Pop Groupメンバーのその後の方向性はココで示されていると思う。
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