2012/02/24

[A-031] Psychic TV - Force the Hand of Chance ('82)

三寒シオニズムの季節となって参りました(笑)。今回からしばらくは『オルタナ・ロック毛唐編』でございます。梅は咲いたかデイジーはまだかいな。HALよ来い。


[A-031] Psychic TV - Force the Hand of Chance ('82)



人生に於ける『オルタナティブ』とは何だろう。…いきなりのザックリと大きなハナシではあるが(笑)、人間の『一般』『普通』『平凡』を『ネイティブ』であると仮定すると、そこから逸脱出来る『方法論』とは何かと云うことになる。

それには価値観の転換と云うか、『常識』と云うモノを回避出来る或る種の『哲学』が必要となるのだが、身近なところで考えて…みるまでも無く、つまりはこの人類の間に蔓延っている『オルタナティブ』とは、いわゆる『宗教』なのである。

Psychic TV (PTV)はノイズ/インダストリアルミュージックの始祖Throbbing Gristle (T.G.)が分裂したその片割れで、リーダーであるGenesis P Orridge (Vo,G)とPeter Christopherson (Tape,etc)を中心としたユニットである。元々T.G.の前身もパフォーミング・アート集団だったが、PTVもコンセプチュアル・アート色が強い。

そのコンセプトとは何かと云えば、実はこのPTV、本体は独自に設立されたTemple ov Psychick Youthと云う『宗教団体』なのだ。彼らの教義は何やらイロイロとあるみたいだが、崇拝しているのは『OV(オヴ)』と呼ばれるモノで、その正体は各種『体液』なんだそうだ。で、団体に参加したい者は自分の血液や精液などを送ると云う何ともおどろおどろしい手続きが必要らしく、まあ、何と云うかアートとしての『宗教』だと信じたいモノである(笑)。

この1stアルバムは、美しいストリングスを従えたバラードや、素朴なフォーク・ロック、パーカッションをバックに元Soft CellのMark Almondが歌う呪術的な曲、暴力的で力強いファンク等、カテゴライズが不可能な程バラエティに富んではいるが、やはり底に流れているのは何ともおどろおどろしいオカルティックなムードだ。

と、ここでこのアルバムについてのレビューは終わってしまう。…実は、このアルバムの発売時、本国では初回限定でもう一枚のアルバムが付属していた。それが『Themes』と呼ばれる、彼らのオリジナル・ビデオ作品のサントラと云われているモノだ。

内容を聴いてみれば、一部を除いては楽器とも呼べない、物の発する『音』が、ただアブストラクトに収録されているだけだ。確かに一斉に吹奏される『23人のチベット人の大腿骨』等、何ともおどろおどろしいモノも有るが、多くはアンビエント・ミュージック的とも云える静謐さを感じさせる。

と、突然に『それ』はやって来る。1分40秒程の、非常に短い曲…いや、『音』だ。不明瞭な音の泥沼から、僅かに、沢山の人間が歌っているのだと窺い知ることが出来る。しかし、録音されたテープの不備か、回転速度はいびつでピッチは安定せず、ヨレてるせいかフランジングもひどい。この静謐なアルバムの中で、明らかに異質な、そして『不気味』な音。これは一体何だろうか。

『人民寺院 (Peoples Temple)』と云うキリスト教系宗教団体…いや、カルト集団がかつてアメリカに存在した。教祖はJim Jones。多くのカルトがそうである様に、彼は外側に『敵』を想定し、信者たちの求心と統率を図った。そして南アメリカのジャングルを切り開き、立てこもる。しかし、数々の信者や元信者に対する反社会的な行為が批判され、1978年11月14日、視察に訪れた議員を殺害してしまうに及んで、『人民寺院』は、恐ろしい結末を迎えることとなる。

世に云う『ガイアナ人民寺院集団自殺』。実に900人余りもの信者が青酸入りジュースを飲んで教祖と運命を共にした。この『音』は、その際に録音された、死を前にして賛美歌を歌う信者たちの歌声だったのだ。

『生』も『死』も、その『道徳観』も『常識』も『感情』も何もかも超越して、ただただ一方的に機械的に残酷に『宗教』は、『神』は、ひとつの大きな『哲学』で人々を押し潰す。それはつまり、最終的絶対的な『オルタナティブ』なのだ。PTVがそれを賛美していたのか、それとも揶揄していたのは判らないが、その『音』を聴いた時の衝撃で、混乱と嫌悪で、聴く者は呪われてしまうのである。


その他のアルバム

Psychic TV - Dreams Less Sweet ('83)



ギターの弾き語りや賛美歌からマシンガンの乱射や狂犬の唸り声まで、オカルティックで静謐な音楽と凶暴なサウンド・コラージュが混沌とする2nd。謎の立体音響技術『Holophonic』により録音されているそうで、曲中に頭蓋骨に豆を注ぐSEが有るのだが、ヘッドフォンで聴いていると確かに頭の中に豆が入って来る(笑)。

Throbbing Gristle - The Second Annual Report ('77)



T.G.の1stにしてオルタナティブ・ミュージックの金字塔。今聴くと過激な音響よりも、電子音楽的な側面が色濃かったことに気付かされる。

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